ゆっくりとほどける茶葉の
はかなく揺らぐ灯火色の茶水。
口にやわらかく
頬をあたためて
咽喉をうるおし過ぎていく。
かすかな光の中へ
手にした杯にふわと浮かぶ果と蜜の匂い
物思いにふける他に何もないところへ
ぼんやりと火の香りが印される。
だんだんと名残が体に立ち込めては消えるのを
だんだんと埋もれた甘い匂いが沁みてくるのを
日の静けさに寄り添いみつめている。
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六十年の記憶をもつお茶は鞣した革のようで 老いて不思議と艶めいていた。
お茶を淹れる人の愛にただ包まれる昼と夜とが交錯する薄暗がりの小間にいて
いつまでもこの時間が続いて行くのだと そう願っていた。
あの日の旅の風景は 今もずっと胸を温めています。
感恩